いかにもいそいで帰って来たというさわ子の声が、台所の土間の方で聞えた。
「お姉さんは?」
「おってじゃ」
叔母が、おかしそうに答えている。
「どこへ、行かりょういの」
「ああ、よかった」
しばらくして、ふだん着にきかえ、ふだん着では女教師というよりもゆったり大柄な娘らしいさわ子が、
「ただいま!」
机のわきに膝をついた。
「御苦労さま。――どうだった?」
すると、さわ子は、きもちよい栗色の顔をふり仰げ、
「ふ――」
と鼻声を立てて、淡白さと甘えを一緒に笑った。
「そんな工合なの? じゃまあお目出度う」
さわ子の受持学級は、五年生であった。福島の田舎で国民学校に通っている伸一が五年生である。伸一たちは、八月十五日以後になっても、歴史や国語、地理をどう教えてよいかまだ分らないからという理由で、農事の作業ばかりやらされていた。
農作は、さわ子の学級でもやっていて、薯のとり入れの配給をもってかえった。
「甘いけれど、貧弱なおいもでありますのう」
姉の縫子はからかった。
「いいのは、みんな子供にやったんだもの。ほん、うれしそうじゃったよ」
六年生になると、上級学校への内申問題があ
前へ
次へ
全220ページ中142ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング