ちらに行った。
「お! はアもう水がはいりよるで!」
 流元の方からうすい電燈の光をうけながら、音も立てず少しばかり水がひたひた入りこんで来ている。それはまるでこの家へだけ、ほんのぽっちりどこかの水があふれて入って来たばかりと云いたげな何気なさである。
 ひろ子は、余りおだやかな目の前のひたひた水を、出水の騒動に結びつけてうけとりかねた。その黒く光る水をぼっと眺めていると、忽ち、小さい昭夫の下駄が浮いて流れ出した。つづいて、土間にあった下駄という下駄がみんな浮き上って流れはじめた。そして、五分経つまいと思う間に土間は脛の高さに水漬りとなった。床へつくまでには、三寸ほどゆとりがあった。
 水嵩にばかり気をとられていた四人の女が、ふと気付いたとき、雨音はさっきよりおとなしくなっていた。
 ひろ子が楽観したように、
「大体この位ですむんじゃないのかしら」
と云った。
「そうなら大助かりじゃがのう」
 それぎり、水は高まって来なかった。シャツ一枚に猿股で沢田の主人が、往来越しにざぶざぶ水をこいで土間に入って来た。
「えらいことになりよりましたのう。早、畳あげてでありましたか。それはよかった。何
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