、あたりまえな雨の水たまりがあるばかりだった。砂利を足の裏に痛くふみながら崖に沿って寺の境内へ登って行った。
 本堂に燈明がついて、もうそこに黒い人影が群れていた。朝鮮人の家族が多かった。石田の家の先に小川が二股になった三角地帯があり、そこに朝鮮人の農家があった。登代が様子をたずねた。
「はア家もなんもありゃせん」
 それは誇張ときこえないのであった。
 みんな、濡れたものをぬいで板じきの隅に一かためにおき、誠は、縫子が手当りばったり入れて来た女ものの浴衣を体にかけて、寺でかしてくれた毛布にくるまった。

        十一

 夜なかにあんな騒ぎがあったそれを信じかねるような快晴の朝になった。
 山門から下って新道の上へ出、それを横切って短いダラダラ坂を石田の家もある一かたまりの部落の往来へ入りかかって、ひろ子は惨澹たる有様におどろいた。とっつきの家では、壁をおとされている。一夜に竹こまいばかりの家になり前の往来に水漬り泥まびれになった家財道具、衣類が乱雑にとり出されている。泥田の中からひっぱり出したような子供の派手な友禅模様のチャンチャンが放り出してあるわきに、溺死した二羽の白色レグホンが、硬直した黄色い脚をつき出してころがされている。
 三角地にあった朝鮮人の農家はほとんど家の土台まで土地が崩壊した。そこを流れる川の水量はもう減っているが、杙《くい》のようなもの、コモ、あらゆる雑物でせかれている。四五人の年とった男たちが、それのとりのけ作業をやっていた。
 雨の深夜の空明りで二階から見おろした黒い水は、あんなに滔々《とうとう》と沢田の軒下を走っていた。かりものの駒下駄でひろ子が歩いてゆく今朝の街道は、あの水の下から地べたがあらわれて、部落じゅうのありとあらゆる臓物が、それぞれ家の表、裏、屋根の上まで拡げられていた。太陽に照らされて部落じゅうに不潔な水蒸気が立ちこめ、穢物のとけこんだべた土の臭気が昇っている。ゆうべのあの水嵩と、けさのこの往来と、ひろ子は、不自然に低いところを歩いているような奇妙な錯覚におそわれながら、一歩ごとに見なれない障碍物がころげ出て、見なれながらふだんと全く景色のちがう往還を通って来た。
 石田の店の先に、大きな角材がひっかかって道をふさいでいた。そこへ空のドラム罐、どこからか流されて来た古床几、箱、砕けた茶ダンス、木の枝をはじめ、あら
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