せないうちに追いはらおうとしたのであろう。
私は、ちょんびりも、そう云う気持は持って居なかったけれ共、彼等が生れるとから、両親が町の地主にいじめられ、いろいろの体の好《い》い「罠《わな》」に掛けられた事を小さいながら知り、それ等の憎むべき敵は皆自分達より良い着物を着、好い食物をたべて、自分達の使わない言葉を使って居ると云う事の記憶から、私をそれと同様のものにみなしたのであったろう。子供達が悪いのでもないだろうし、親が悪いのでもないだろう。只生活の苦しみが子供達までそんな悲しい気持にさせて仕舞ったのである。
その根元から覆《くつがえ》して、世の外《ほか》へ投げやりたい生活の苦しみは、いつの世にあっても、人間が生活をして居る間は絶えない事であるのを思えば、生活の苦しみに打ち勝ち得る智力とそれにともなう肉体を持たないこの子供等と同じ様な気持の人が幾百人、幾万人、また無窮にこの世に生れては死し、死しては生れしなければならないだろうと云う事も思うのである。親切を親切としてうけ入れられない事のある世の中、それは実に悲しいことである。この様な、世に出てから時の少しほか立たない私でさえ、生活の苦し
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