の叢《くさむら》にころげ込んで仕舞った。
 私は本能的にすばやく身をよけてすぐ後を振向くとまだ二三間ほかはなれて居ない甚助の家の入口の家中の子供が皆重なりあって此方をのぞき、私に怒叱《どな》った一番大きな子は、次の石を拾おうとして腰をかがめて往還に立って居た。
 私は、鋭い勢で飛んで来た小石が、袷の着物を通して体にあたる痛さや、素足から血のにじんで居る様子を男の子の態度を見た瞬間に想うともなく想った。
 男の子が投げる事をやめる様にわきにある杭の木を小楯に取って、じいっとその方を見つめて居た。
 体は静かに、眼は静かに、子供の上にそそがれてあるけれ共、今までに経験したことのない不安な気持は、私の頭中かけ廻って、あの小石が男の子の手をはなれるやいなや身をよける用意さえして居た。私はいつまでもじいっと彼方を見て居た。
 彼方も又、私におとらないほど、此方を見つめて居る。けれ共、とうとう二度目の石はそのまま男の子の足元にすてられ、皆家へ入って仕舞った。
 それを見すますと急に私は、頭の頂上で動悸《どうき》がして居る様な気がした。
 それからすぐの家の門へ入るまで私は、まるで駈けると同じ様な速
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