し始めて、しばらく立つと一番の兄は、ヒョイと土間へ素足のまんま下りて「流し」に行った。そこには、朝のままの木の「椀」がつみかさねてあり、はげたぬり箸は、ごちゃごちゃに入って来[#「来」に「(ママ)」の注記]た。
 その椀を人数だけと箸を一本ずつ取って「わら」で一拭したまんま畳の上へ上って仕舞った。
 私はわきで草を刈って居る婆さんに声を掛けた。
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「ねえ、お婆さん、
 どこの子供でも、あんなにはだしで上ったり、下りたりして居るの? 誰も叱り手がないんだろうか。
「なあにねえ、お前様、桑の価は下り一方だかんない。駒屋の親父《とっ》さまあ家《げ》の畑《はた》土は、一度も手がつかねえほどなんだし
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 婆さんは、桑の相場をきいたと思って居るのだ。
 私は笑うともなく唇をきゅっとまげて又子供等の方に又目をやって居た。
 丁度その時、大きい兄は弟や妹達に、鍋の中からホコホコに湯気の立つ薯を一つずつわけ始めて居る。
 兄弟中で一番年嵩で、又、一番悪智恵にも長けて居る兄は、皆の顔を一順見渡してから、弟達に一つやる間に非常な速さで、自分の中に一つだけ余計に投
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