だして鶏の群に飛びついた。
 食物に我を忘れて居た鶏共は、不意に敵の来襲をうけてどうする余地もなく、けたたましい叫びと共にバタバタと高い暗い鳥屋に逃げ上ろうとひしめき合う。あまりの羽音に「きも」を奪われたのか、犬はその後には目もくれずにじめじめした土間を嗅ぎ廻る。
 この急に持ち上った騒動に坐って居るものは立ち上り、ねころんで居た者は体を起した。一番年上の男の子は、いきなり炉から燃えさしの木の大きな根っこを持ちあげるがいなや声も立てず、図々《ずうずう》しい犬になげつけた。
 犬にはあたらなかったらしい。
 けれ共、驚きのために低い叫びをあげて私の居た裏口の方へかけて来、少しの間うじうじした後、すぐ間近に居た私の足に、土を飛ばせながら畑地を彼方《むこう》にこいで行って仕舞った。
 なげ出された木の根っこは、ふてた娘の様にフウフウとはげしい煙に、あたりをぼやかして居た。
 その木の始末を仕様ともしず子供達は又鍋のものに吸《すい》よせられて元の姿にじいっとして居るのであった。
 斯うやって子供達の待遠しい時間は、ゆるゆると立って漸く鍋の中から、白い湯気が立ちのぼり、グツグツと云ううれしい音が
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