かった池も、にわかに取り澄まして、近づき難い、可愛げのない様子になって仕舞った。
 その頃、かなり一番池とは、はなれて、その岸辺は葦でみたされ堤は見えない処で崩れ落ちて、思いもかけぬ処から水田に、はてしなく続いて居る。
 この池の堤の裏を町に行く里道の道とも云うべきのが通じて居る。
 何の人工も加えられず、有りのまま、なり行きのままにまかせられて居るので、池は、何時とはなし泥が増して今は、随分遠浅になって居る。
 けれ共、その中央の深さは、その土地のものでさえ、馬鹿にはされないほどで、長い年月の間に茂り合った水草は小舟の櫂にすがりついて、行こうとする船足を引き止める。
 粘土の浅黒い泥の上に水色の襞が静かにひたひたと打ちかかる。葦に混じって咲く月見草の、淡い黄の色はほのかにかすんで行く夕暮の中に、類もない美くしさを持って輝くのである。
 堤に植えられた桜の枝々は濃く重なりあって深い影をつくり、夏、村から村へと旅をする商人はこの木影の道を喜ぶのである。
 二番池の堤は即ち三番池の堤である。二番池の崩れた堤は、はるか遠く水田の中にかくれて完全に道のついて居る一方はいつとはなしに三番池の堤の
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