町のステーションから、軒の低い町筋をすぎて、両方が田畑になってからの道は小半里、つきあたりに、有るかなしの、あまり見だてもない村役場は建って居る。和洋折衷の三階建で、役場と云うよりは「三階」と云う方が分りやすい。
この「三階」につく前少しの処に三つ並んで大池がある。並んで居る順に一番池二番池と呼ばれ、三番池は近頃まで三つの中で、一番美くしい、清げな池《いけ》であった。四五年前から、この村と町との間に水道を設ける事の計画が一番池が有るために起って居た。
町方《まちかた》から小半里の間かなりの傾斜を持って此村は高味にあるのでその一番池から水を引くと云う事は比較的費用も少しですみ、容易でも有ろうと云うのでその話はかなりの速力で進んで、男女の土方の「トロッコ」で散々囲りの若草はふみにじられ、池の周囲に堤を築かれ堤の内面はコンクリートでかためられ、外面には芝を植えられて「この池の魚釣る事無用」「みだりに入るべからず」と云う立札が立ち、役人のいる処や、標示板の立ったはもう二年ほど前の事である。
そのために、湖の様に、澄んで広々と、彼方《むこう》の青や紫の山々の裾までひろがって居る様にはてしな
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