太い五人の子供が炉に掛った鍋の食物の煮えるのを、この上ない熱心さで見守って居る様子は、何となしに空恐ろしい様な気持を起させる。
 私はこんな貧しい家を目前に見た事はまだ一度もなかった。鮫ケ橋の貧民窟は聞いて名ばかりを知って居る。
 こんな子供ばかりで居る暮しを見た事もない。私はこの家の暮しは、話できいて居るよりもひどいと思った。
 こんなにも道具がなくて暮す事が出来るのだろうか、子供ばかり置かれてどうするだろうか。
 子供のためにも悪いだろうし、よく悪い者が入って来ない事だ。
 お金なんかはどうして置くんだろう。
 非常な物めずらしさで、よく見て居たいと思うともう私は婆さんの話には最早耳をかたむけなくなって仕舞った。
 けれ共婆さんは、私が聞こうが聞くまいがかまわないと云う風に、只一人で勝手に喋《しゃべ》って居る。
 養蚕の事を云って居た。
 実際子供等は、鍋のものの煮えるのを待ちあぐんで居るらしかった。
 こんなにも食べたく、こんなにも待ち遠がるほど三度三度の食事は、子供達の腹をみたすだけ十分でないのだろう。
 育つ勢の盛なる子供達はたとえその度毎にあきあきするほど食べても、又その次
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