で見て居る。
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「大丈夫だよ。今年は、冬が早く来る様だねえ。
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と云って居ると土間の処で、
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「お寒うござりやす。」
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と中年の女の声がする。女中が座ったまま、
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「誰《だれ》だい?
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と云うと、
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「己だが。
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と云う。
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「ああ、甚助さん家《げ》のおっかあか、お上《あが》んなね。
「畑さ行《いぐ》のよ、東京のお嬢様いらっしゃるけえ、ちょっくら呼んで来ておくんなね。
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女中はチラッと私の顔を見て、
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「お起きんなったばっかりだによ、着物でも着換えてからいらっしゃるだべ。
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と云って茶を入れ始めた。
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「何にしに来たんだろう。
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と思いながら大いそぎで着換えて土間の処へ行くと、鍬をわきにころがして、もじゃもじゃの頭をして胸をダブダブにはだけた四十近い様な女が立って居る。私の顔を見ると急に腰をまげて、
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「お早うござりやす。昨日は、はあ家《うち》の餓鬼奴等が飛んでもないこといたしやったそうでなし、御わびに来ましただ。
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と云う。漸くわけが分った。
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「わざわざ来なくったっていいのに、どこの子供だって悪戯はするもの怒ってなんか居るものかね、お前子供を叱ったろう、ほんとうにかまいやしない、大丈夫だよ。
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と云ってやると、女は気安そうに笑いをうかべながら、
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「お前様、今朝ね、お繁婆さんが来やしてない町さ行くが買《けえ》物はねえかってききながら昨日の事云いやしたのえ。一寸も知りましねえでない。御無礼致しやした。己《お》ら家《げ》の餓鬼奴等も亦何っちゅうだっぺ、折角、ねんごろにきいてくれるにさあ石なげるたあ。此間《こねえ》だも――
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と村校友達となぐり合を始めて相手に鼻血を出させたが、元はと云えばブランコの順番からで夜まで家へ帰されなかったと話して聞かせた。
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「御免なして下さりませ、ほんに物の分らん児だちゅうたら。
「かまいやしないよ、子供の事だもの。
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女中もいつの間にか後に立って、
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「ほんに彼の児は気が強《つえ》え児だかんない。
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と云って居る。じきに女は帰って仕舞った。女中は湯を「金《かな》だらい」にあけながら、
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「頂戴物が減るのを気づかって来やしたのし。
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と笑って居た。
女中は祖母にその事を見た様に話して居る。
祖母に、たのまれた用事があるので、じき近処の牛乳屋へ行く。此村に只一軒の店で昔から住んで居るので実力のある家だ。
四五年前に病気が流行《はや》った時に数多の牛を失ったので、今は元に戻すにせわしくして居る。兄弟で一家に居て同じ仕事を共同にして居る。兄はどっちかと云えば小柄な、四角張った顔の中に小さい眼と低い鼻と両端の下った様な口をして居る。髪を少し長目に刈ってクキンクキンとした眉の下からその小さい眼がすばしっこく働き、上眼で人を見る癖がある人だ。見かけは小細工の上手そうな男に見えるけれ共、内心はそうではないらしい。村会議員の選挙、その他重だった事にはなくてはならない人になって居る。
召使より早く起き日の出ないうちに外囲りを掃いてから、乳搾りやその他のものを起すと云う事は知らぬ者がなく、働き手で通って居る。体も骨太に思い切って大きく眼の大きい眉の太い弟の方は兄より見かけが良い。兄よりは熱のある顔つきをして居るけれ共深い事は知らない。
荷馬車の轍《わだち》の深い溝のついて居る田舎道を下り気味に真直に行って茨垣の中に小さく開いて居る裏門から入って行く。
左側の小屋の乾草を小さい男の子が倍も体より大きい熊手で掻き出して居る。
牛はまだ出て居ない。午前中は出さないものと見える。狭い土面をきちきちに建ててある牛舎には一杯牛が居る。私の幼《ちい》さい時から深い馴染のある、あの何だか暖ったかい刺激性の香りが外まであふれて居る。
退屈な乳牛共が板敷をコトコト踏みならす音や、ブブブブと鼻を鳴らすの、乾草を刃物で切る様な響をたてて喰べて居るのなどが入りまじって、静かな様な、やかましい様な音をたてて居る。
わきに少しはなれて子牛と母牛を入れてある処がある。乳臭い声で「ミミミミ」と甘える声や、可哀くてたまらない様にそれに答える母牛の
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