され様とは夢にも思って居なかった。見なれない年若な女が自分達の家へいきなり入ってきて、
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淋しいだろうの
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何のと云うので年上の子は何か誤解したのであったろう。他人の親切を、親切として受入れる事の出来ない子達だと思うといかにも「みじめ」な気持にもなるけれ共、私の掛けた親切な言葉は、今まで、今の様な言葉で受けられた事がないので、いかにも気の小さい、気はずかしい様な気持にもなった。
私は微笑する事も出来ない様に婆さんの顔を見た。
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「礼儀も何も、知《し》んねえからなっし
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と取りなし顔に云いながら、立ちあがった。家の中の事に気を配りながら出るあとについて私も一緒に往還の方へ出ると、そこから杉並木の様な処を透《とお》して真直《まっすぐ》に見えて居る祖母の家へ足を向けながら、婆さんに、
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「晩にでも遊びにお出。
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と云いすてて只った一人足元を見ながら、沈んだ、重い気持で、静かに歩いて居ると小石がひどい勢で飛んで来て、私のすぐ足元で白いほこりをあげ、わきの叢《くさむら》にころげ込んで仕舞った。
私は本能的にすばやく身をよけてすぐ後を振向くとまだ二三間ほかはなれて居ない甚助の家の入口の家中の子供が皆重なりあって此方をのぞき、私に怒叱《どな》った一番大きな子は、次の石を拾おうとして腰をかがめて往還に立って居た。
私は、鋭い勢で飛んで来た小石が、袷の着物を通して体にあたる痛さや、素足から血のにじんで居る様子を男の子の態度を見た瞬間に想うともなく想った。
男の子が投げる事をやめる様にわきにある杭の木を小楯に取って、じいっとその方を見つめて居た。
体は静かに、眼は静かに、子供の上にそそがれてあるけれ共、今までに経験したことのない不安な気持は、私の頭中かけ廻って、あの小石が男の子の手をはなれるやいなや身をよける用意さえして居た。私はいつまでもじいっと彼方を見て居た。
彼方も又、私におとらないほど、此方を見つめて居る。けれ共、とうとう二度目の石はそのまま男の子の足元にすてられ、皆家へ入って仕舞った。
それを見すますと急に私は、頭の頂上で動悸《どうき》がして居る様な気がした。
それからすぐの家の門へ入るまで私は、まるで駈けると同じ様な速さで、何も考えるいとまもなく急《いそ》いだ。祖母の顔を見るとすぐ、
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「甚助の家《うち》の児達は、ほんとうに、いやな児だ!
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と云ったっきり縁側に腰をかけて仕舞った。口に云われない安心が切り下げの祖母の姿と、さっぱりときれいなあたりの様子から湧き出て私の心に入って行った。
私は何の不幸も知らない、世の中はいつでも親切なつもりの言葉は、親切な様に、情深い話はその様にばかり聞かれるものの様な気がして居る。
又、それが、必[#「必」に「(ママ)」の注記]してそうばかりではないのも知って居ながら、実際、自分の親切な言葉をああした調子に返され、その上、後から小石まで投げつけられ様とは何だか不思議な様な気がした。
人にねらわれた事のない私、ああやって、形に表われた様な事で小石の的《まと》にされた事などのない私はどんなに気味悪く思っただろう。私は甚助の子供の気持より、はるかに単純で臆病なのを知るのであった。
彼の子供達は、私の親切な言葉のかげに何か、たくらみのあることを想像したのだろう。
その体の良い仮面《めん》をかぶった悪いたくらみを深入りさせないうちに追いはらおうとしたのであろう。
私は、ちょんびりも、そう云う気持は持って居なかったけれ共、彼等が生れるとから、両親が町の地主にいじめられ、いろいろの体の好《い》い「罠《わな》」に掛けられた事を小さいながら知り、それ等の憎むべき敵は皆自分達より良い着物を着、好い食物をたべて、自分達の使わない言葉を使って居ると云う事の記憶から、私をそれと同様のものにみなしたのであったろう。子供達が悪いのでもないだろうし、親が悪いのでもないだろう。只生活の苦しみが子供達までそんな悲しい気持にさせて仕舞ったのである。
その根元から覆《くつがえ》して、世の外《ほか》へ投げやりたい生活の苦しみは、いつの世にあっても、人間が生活をして居る間は絶えない事であるのを思えば、生活の苦しみに打ち勝ち得る智力とそれにともなう肉体を持たないこの子供等と同じ様な気持の人が幾百人、幾万人、また無窮にこの世に生れては死し、死しては生れしなければならないだろうと云う事も思うのである。親切を親切としてうけ入れられない事のある世の中、それは実に悲しいことである。この様な、世に出てから時の少しほか立たない私でさえ、生活の苦し
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