で見て居る。
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「大丈夫だよ。今年は、冬が早く来る様だねえ。
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と云って居ると土間の処で、
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「お寒うござりやす。」
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と中年の女の声がする。女中が座ったまま、
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「誰《だれ》だい?
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と云うと、
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「己だが。
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と云う。
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「ああ、甚助さん家《げ》のおっかあか、お上《あが》んなね。
「畑さ行《いぐ》のよ、東京のお嬢様いらっしゃるけえ、ちょっくら呼んで来ておくんなね。
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 女中はチラッと私の顔を見て、
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「お起きんなったばっかりだによ、着物でも着換えてからいらっしゃるだべ。
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と云って茶を入れ始めた。
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「何にしに来たんだろう。
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と思いながら大いそぎで着換えて土間の処へ行くと、鍬をわきにころがして、もじゃもじゃの頭をして胸をダブダブにはだけた四十近い様な女が立って居る。私の顔を見ると急に腰をまげて、
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「お早うござりやす。昨日は、はあ家《うち》の餓鬼奴等が飛んでもないこといたしやったそうでなし、御わびに来ましただ。
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と云う。漸くわけが分った。
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「わざわざ来なくったっていいのに、どこの子供だって悪戯はするもの怒ってなんか居るものかね、お前子供を叱ったろう、ほんとうにかまいやしない、大丈夫だよ。
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と云ってやると、女は気安そうに笑いをうかべながら、
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「お前様、今朝ね、お繁婆さんが来やしてない町さ行くが買《けえ》物はねえかってききながら昨日の事云いやしたのえ。一寸も知りましねえでない。御無礼致しやした。己《お》ら家《げ》の餓鬼奴等も亦何っちゅうだっぺ、折角、ねんごろにきいてくれるにさあ石なげるたあ。此間《こねえ》だも――
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と村校友達となぐり合を始めて相手に鼻血を出させたが、元はと云えばブランコの順番からで夜まで家へ帰されなかったと話して聞かせた。
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「御免なして下さりませ、ほんに物の分らん
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