はそれなり又箪笥へしまいこまれた。
「箱をかえにゃいけんなあ」
ひとりごとのように云いながら、おさやが隅のつぶれた「朝日」のボール箱を引出しからとり出してふたをあけ、ちょっとなかを調べて埃を吹いた。
「なんで」
「お父はんの勲章や」
お縫が、
「あら、うち、見たこと一ぺんもないわ」
と云った。
「軍隊手帳も入っちょりますか」
「入っちょる」
「どれ」
金鵄勲章という名だけはきいていて、お縫は現在目の前のボール箱の中に入れられている品とは何かしら見かけも全く別なものを想像していた。こういうものにも沢山の種類があるのであろう。その箱の中に、庄平が達者だった時分の写真が偶然一枚混りこんでいた。黒紋付を着て、その勲章のほかに二つ並べて胸に下げている。写真にうつっている方が、却って本物らしく見られるのであった。
皆、暫くは何も云わずに勲章を眺めていた。やがておさやは黙ったまま、元どおりボール箱の蓋をして、株券と同じところにそれをしまい込んだ。
底本:「宮本百合子全集 第五巻」新日本出版社
1979(昭和54)年12月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷
前へ
次へ
全37ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング