突・セメント・左官材料等と、それを商うときにつかう大きいカンカン秤が置かれており、人気ない真昼間などには折々鼠の尻尾が俵の間に見えがくれした。春のこの頃は毎年肥料の渋いような脂のこげたような匂いが藁の匂いと交りあって濃く家じゅうに漂っている。土間の奥が広くなって、そこが台所であった。幅は三尺もない縁側めいたものが土間に向って六畳から張り出されていて、粗末な木の細長いテーブルがその縁側においてあった。朝と昼とは家内じゅうがそこで遽しく食事をした。
お縫は、その張り出しと六畳との境の障子際に坐って、伯母のおさやの古浴衣をほぐしていた。庄平の骨ぐみの堂々と重く、しかし不随の腰の下に敷く小布団を縫わなければならないのである。
坂口の爺さんは、お縫のところから斜向いの畳の上につくばっているのであった。鉛筆を我にもあらず舐めくる程気を立てている爺さん、しかも数字さえしゃんしゃんとは書き込めない爺さんのあせった姿は、お縫にいつも気の毒さと同時に若い娘らしい軽い皮肉を感じさせた。お縫の目に、この奥の村の小地主の爺さんがみじめたらしく見えるには、理由もなくはなかった。お縫の父親、庄平の弟は、この数年
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