、まるで切り出しの刃のように片そげになった狭い地べたの上に随分無理をして建て並べられている。片側は往来のすぐ裏がもう線路で、やっと一側の家が並んでいるだけだし、その向い側はすぐ畑や田圃につづく松山にさえぎられて、村全体が奥ゆきない埃っぽいかまえであった。何年か昔、ここへステーションが出来るというので、何か一つ新しいたつきをと求めて集った家々である。
村じゅうがひっそり閑として夕方近い西日に照らされているこういうひととき、停車場で汽車の汽笛が一声鳴ると、その音は西日のすきとおる明るさのなかに谺《こだま》して、あっちからこっちの山へとまわって響いた。それは変に淋しかった。つづいてギギーと貨車か何かが軋る音がしてガチャンと接続のぶつかり合う音がしてまたあとはしーんとしてしまうようなとき、お縫は胸のなかをしぼられるように我家をなつかしく思った。
お縫のうちの方は、こことはちがって、海辺に近い半農半漁の村暮しで、寺の山にのぼると、小笠島というめばる[#「めばる」に傍点]のよくとれる島のまわりからずーっと瀬戸内海が見渡せた。村の浜は風景が美しいので有名な海浜で、昔ながらの村落は、海辺をかこむ松
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