こともなさそうな体をしている。自分が裸体だなどということはまるで忘れて、水気が一どきに乾こうとする寒さで、歯の根も合わずガタガタ震えながら、それでもひるまない禰宜様宮田は、若者の上に跨《また》がるようにして、
ウムッ! ウムッ!
と満身の力をこめて擦《こす》っている。
青ざめた、けれどもどうあってもこの男を生かさずにはおかないぞというような、堅い決心を浮べた彼の顔は、平常《ふだん》に似合わずしっかりとして見える。
心から調子の揃った四人の手は、やがてだんだん若者の生気を取り戻し始めた。
呼吸が浅く始まる。
紫色だった爪に僅かの赤味がさして、手足にぬくもりが出る。
おいおい知覚されて来た刺戟によってピリピリと瞼や唇が顫動《せんどう》する。
やがて、ちょうど深い眠りから、今薄々と覚めようとする人のように、二三度唇をモグモグさせ、手足を動かすかと思うと、瞬《まばた》きもしないで見守っていた禰宜様宮田の、その眼の下には、今、辛うじて命をとりとめた若者のみずみずしい眼が、喜びの囁《ささや》きのうちに見開かれた。
この瞬間!
禰宜様宮田は、自分の体の中で何かしら大した幅のあるもの
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