ればいいだけである。
いろいろな口実を設けて、家屋まで奪われた彼女は、ようよう元納屋にしていたところを住居にして、朝は目が覚めたときに起き食事をすますと荷をかついで出たまま、気が向くまで帰って来ないのが、このごろの習慣になっていたのである。
九つになった六は、母親があってもなくてもまるで同じような生活をしていた。
目を覚したときには、お石はもう大抵留守になっているし、遊び疲れた彼が炉傍でうたたねしてしまう頃までに彼女は帰って来ない方が多い。
学校へも行かず叱りても持たない彼は、彼の年の持つあらゆる美点と欠点のごちゃごちゃに入り混った暮しをして、或るときは大変いい子であり或るときは大変悪い子である六は、貧しい部落中でも貧しい者の子、躾《しつ》けのない子と目されているので、彼の友達になってくれるものはない。
たまにあったとしても、学校で教わって来た字を書いては、
「六ちゃん、おめえこの字知ってる?」
などときかれるのは、たまらなく口惜しい。自分の方でも避けているので、まったく独りぼっちの彼は一日中|裸足《はだし》の足の赴くがままに、山や河を歩きまわっていたのである。
どこへ行っ
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