の中央まで導かれるはずなのである。
もうそろそろ昼頃かと思う時刻になると、彼の仲間として一かたまりになっている七八人の者の中の一人が、
「とっさん頼むぞ、
飯《まんま》の茶あ沸かしてくんな」
と、云って後の方に鍬を振っている禰宜様宮田を振り返った。
「ふんとに、はあ昼だんべ、
とっさんよ!」
禰宜様宮田は、穢《きた》ない小屋掛けへ戻って行った。そして大きなバケツを下げて、足袋の中でかじかむ足を引きずりながら小一町ある小川まで水を汲みに行く。
これは毎日の彼のお役目にされてしまったのである。
あっぱの宮田は、ほんとにはあ機械《からくり》同然だ。何をしても憤らなきゃあ、小言も云わない。頼むぞと云いさえすりゃあ否《いや》と云えねえ爺さまだ。
強い者勝ち、口の先だけでも偉そうな気焔を吐く者が尊ばれるこういう仲間では、黙って何でも辛棒する禰宜様宮田は、一種の侮蔑を受ける。彼の美点であり、弱点である正直などこまでも控目勝ちなところを彼等は、どしどしと利用するのである。
利用するとまではっきり意識しないでも、皆があまりぞっとしないことを、禰宜様宮田のところへさえ持って行けば遣ってくれ
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