者達は皆同情して、世界中の悪口をあらいざらい、海老屋の人鬼、生血搾りに浴せかけた。
 口では、まるで一ひねりに捻り潰してくれそうな勢で彼女を罵ることだけは我劣らじと罵る。
 けれども、若しその公憤を具体化そうとでも云えば、彼等は互に顔を見合わせながら、
「はあ……
 相手《ええて》がわれえ……」
と尻込みをして、一人一人コソコソと影を隠してしまうだろう。
 それ等の同情も、いざという肝腎の場合にはさほどの役には立たない。何と云って禰宜様宮田の肩を持っても、どれほどひどく海老屋の年寄りをけなしても、つまりはなるようにほかならないにきまっている。
 そこまで俺等《おらら》の力あ及ばねえということを、云う方はもちろん云われる方も漠然と感じている。
 いくら無責任な同情だといっても、慰められ、辛い境遇を共に悲しんでもらって厭な心持はしないのみならず、却って彼等は事件の結果に何の責任も持たないからよけい禰宜様宮田の心を動かすような言葉を、口から出まかせ、行がかりにまかせて喋る。
 諦めていたはずの土地に対しても、また新しい執着――強い、もうあんなに単純には諦めきれない未練――を覚えるとともに、怨
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