訴えるような眼をあげて油を今注いだ車輪のようによく廻る番頭の口元を眺めた。
「まあまあそんなにお怒んなさんな、
御隠居だって、無理もないんだ。ああやってせっかく気を揉《も》んで使をよこすと、片っ端からいらないいらないじゃあ、誰にしろいい心持あしないもんです。
あんまり勝手がすぎると、ついそこまで考えるのも、年寄りにゃあ有勝ちのこった。ねえ。
せっかくこちらも、こうやって決してそんな気はなくているものを、御隠居にそうとられるというなあ、全くのところ損どころの話じゃあない。察しまさあ、だから今度あおとなしく御隠居の志を通しなさい、ね、そうすりゃあ決して悪いこたあない」
最後の「御褒美」として、今明いている十三俵上りの田を十俵に就き三俵で貸そう。これまで云って聞かなければどうしても、御隠居の疑いを事実と認めるほかないと云うのである。
あんまりひどい!
あんまり云いがかりも過ぎている。こんな難題がどこにあろう。
禰宜様宮田は、何か一言二言云おうとして口を開いた。が、あせる唇の上で言葉になるはずの音が切れ切れに吃るばかりで、ようよう順序立てて云おうとしたことは忽ち、めちゃめちゃに乱
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