様宮田は、そういう心持を自分で自分の心に恥じていた。
 どこに、自分等の大切な家族の一員の命を救ってくれたものに対して、悪い返報をするもの、また出来るものがいるだろう。
 浅間しい疑を抱く自分を彼はひそかに赤面しながら、どこまでも、親切ずくのこととして信じようとしていたのである。
 けれども、四度目に来たとき、海老屋の番頭はもう断わられて帰るような、そんななまやさしいものではなくなった。
 彼はほんとの用向――年寄りの計画の第一部――を持って現われたのである。
 今までとは打って変って高圧的な口調で、番頭は先ず隠居が大変立腹していること。こんなに手を換え、品をかえて何か遣ろうとするのにきかないのは、何か思惑があるのじゃあないか、一旦自分で突落した若旦那をまた自分で助けて来でもして、こちらで上げようとしているものより何かほかのものに望みを置いているのじゃあないかと思っていなさると、云った。
 それを聞いて、真先に怒鳴り出したのはお石である。
 憤りでブルブルと声を震わせ、吃《ども》りながら、番頭の前へずり出して噛みつくように叫んだ。
「云う事うにもことう欠《け》えて、まあ何《あ》んたらこ
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