今の世じゃあ、金さえあればどんな無理も通せるというもの、現に佐渡り[#「佐渡り」はママ]の議員だって、買ったも同様の札で当ったのだというじゃあないか。
 ものは方便、金がもの云う時世に生れて、変におかたいことを云うのは、馬鹿の骨頂《こっちょう》だ。
 何とか彼とか理窟をつけて、溜めたくないようなふりをしている者のお仲間入りをしていられるものか。何と云われたってかまわずドシドシ溜れば、それでいいのだ。ああそれでいいのだとも……。
 どんな僅かの機会でも、決して見逃すことのない彼女は、幾分かの利益が得られそうだとなると、どんな手段でも策略でも遠慮会釈なくめぐらして、どうにでもしまいには勝つ。
 まるで思いがけないような難題を考えたり、云いがかりを作ることは、彼女の得意とするところであり、従って何よりの武器であった。それ等の思いつきを、彼女は日頃信心する妙法様の御霊験《おしめし》と云っていたのである。
 果樹園には、この土地で育ち得るすべての種類の果樹が栽培されていた。
 そして、収穫時が来ると、お初穂《はつ》をどれも一箇《ひとつ》ずつ、妙法様と御先祖にお供えした後は、皆売り出すのだから、今
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