者達は皆同情して、世界中の悪口をあらいざらい、海老屋の人鬼、生血搾りに浴せかけた。
口では、まるで一ひねりに捻り潰してくれそうな勢で彼女を罵ることだけは我劣らじと罵る。
けれども、若しその公憤を具体化そうとでも云えば、彼等は互に顔を見合わせながら、
「はあ……
相手《ええて》がわれえ……」
と尻込みをして、一人一人コソコソと影を隠してしまうだろう。
それ等の同情も、いざという肝腎の場合にはさほどの役には立たない。何と云って禰宜様宮田の肩を持っても、どれほどひどく海老屋の年寄りをけなしても、つまりはなるようにほかならないにきまっている。
そこまで俺等《おらら》の力あ及ばねえということを、云う方はもちろん云われる方も漠然と感じている。
いくら無責任な同情だといっても、慰められ、辛い境遇を共に悲しんでもらって厭な心持はしないのみならず、却って彼等は事件の結果に何の責任も持たないからよけい禰宜様宮田の心を動かすような言葉を、口から出まかせ、行がかりにまかせて喋る。
諦めていたはずの土地に対しても、また新しい執着――強い、もうあんなに単純には諦めきれない未練――を覚えるとともに、怨みとも憤とも区別のつかないようにもしゃもしゃした心持が蘇返って来て、禰宜様宮田をどのくらい苦しめているのか。
そういうことは、彼の仲間の一人として考え及ぶ者はなかったのである。
慰められるにつれて、しんから底から自暴自棄になっていたお石は、ようよう気を持ちなおすに従って、体ごと真黒焦げに成ってしまいそうな怨みの焔が、途方もない勢で燃え熾って来るのを感じた。
何かしてやれ!
何とかしてくれたら、はあなじょうに小気味がよかっぺえ!
二六時中、人間のような声を出して怨念が耳元で唆《そその》かす。
よくも、よくも、こげえな目さ会わせおったな!
今に見ろ!
大黒柱《でえこくばしら》もっ返《けえ》して、土台石《どでえいし》から草あ生やしてくれっから!
いても立ってもいられないような気持になったお石は、ほとんど夢中で納屋へ馳けこんだ。
そして、まるでがつがつした犬のように喘いだり、目を光らせたりして鼻嵐しを吹きながら、そこいらに散らかっている古藁で、人形《ひとかた》を作りにかかった。
彼等の仲間では昔ながら恐ろしいものにされている祈り釘をこの人形に打ちこんで海老屋の人鬼の手足を
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