《て》に渡す。何の不安も、焦燥も感ぜずにその金は彼女の配慮で日常の生活を満たして行く。
天気の晴々と輝きわたった夏などに、昼飯に戻って来た彼は、よく子供達に取繞《とりま》かれながら裏の草原で洗濯物を乾しているマーガレットを見出すことがあった。
金色の日光がキラキラと金粉を撒くように降り注ぐ明るみの中で、嬉戯《きぎ》する子供等と、陽気な高声で喋りながら、白く肥った腕を素早く動かして、張りわたした綱に濡れた布を吊る彼女の姿は、どんなに彼の心を悦ばせたことだろう。一足毎に大きなかごを傍へ傍へと引寄せながら、上下する体の運動につれて、愉快な小唄を口誦む彼女。跼《しゃが》む機勢《はずみ》に落ちかかる後れ毛を、さもうるさそうに手の甲で掻き上げながら、ちょっと頭をあげて大きく息をする彼女。そこには若い母親の豊饒な愛が、咽《む》せるほど芳しく漂っている。見馴れた光景でありながら、その家庭的な情景に逢うと、彼は湧き上る感謝を圧えることができなかった。よき家である。よき妻や子等である。わざと木影に隠れて、我れともなく恍惚とした父親を真先に見つけた子供達が、弾む小毬《こまり》のように頸や胸元に跳びつく頃
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