、実利主義者である。
 理想家ルースは左翼のリーダアになったかもしれずY・M・C・Aのとび切り忠実な書記にでもなりかねないが、一面の極めてつよい実利性のために、現実においてルースは卑俗な一般的見解の水準での成功に屈伏し、金をつくり、遂に現代アメリカの支配階級の連中とは「君、僕、我々」で話す仲となった。もはや往年の貧しい牧師の息子にとって権力者たちは「彼等」ではなくなった。そしてルースはイェール大学の最も富裕な最も業々しくて反動的な「髑髏と骨」団の団員になった。
 かくて、ルースが最初出発した、「正直な報道」の与え手としてのジャーナリストの立場は非常に危険なものになって来たとマクドナルドは見ているのである。
 私は、日本のジャーナリズムにそれぞれ今日の立役者として今日活躍している何人かの人々の性格、人間的動きの中に、ルースについてマクドナルドが観察している点が尠からず看取されるところに深い感興をもった。菊池寛氏をはじめ手近に想い起される日本ジャーナリズムのドミナント・フィギュアを心に浮べて、ルースの持つような性格分裂、ジャーナリストとしての危険に多少ともさらされていない何人を挙げることが
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