るのよ」
「講さ入んねえばって生めるよ。入っていてくれたって赤ん坊は勝手に出て来るもんだ」
 どっか後の方に坐ってるお神さんが云った。
「でも……講からはずれた××さんは、赤ん坊の頭だけ出て、あとえらい難産したアだとよ」
「そら、お前四日も食わなかった揚句だもの! 体に力がないところさ、どうして安々生れべ! 子安講さ入っててもわれわれが食えるようにはならねえよ」
「おーさ!」
「子安講をやるんだら、いっそ組合総体が入ってしるべ! あんな裏切もんの指図でしるこたねえだ」
「おーさ!」
 月の光がガラス戸の外一面に流れ、宵の口は薄ら寒かったが、今はみんな熱心に喋るもんで水が飲みたいぐらいになって来た。××さんが提議して大きな西瓜が切られた。かれこれもう一時過ぎているのに西瓜の盆をかこんで活溌に討論し、陽気に笑い「さ、そろそろ帰るべ」とは云いながら誰ひとりランプの下から動かない。婦人部維持費五銭積立の件、××さん出産祝の件、組合内に購買組合を組織する件、日頃の団結の強さと未来の勝利への確信が何とも云えない熱となってこの屋根の下に燃え輝いている。
   ×
 翌朝は日が出ると間なし起床だ。
 
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