首人形を買って来て呉れたのをたった一つ「おちご」に結ったのをやった。紫の甲斐絹の着物をきせて大切にして居たけれ共時の立つままに忘れてどこへかなげやられて仕舞った。
 どんなによごれてもそれでも見つかったらせめてかたみとも思おうもの、どこの隅にも忘られた首人形は見つからない。その持主と一緒に此世から消えたので有ろうか。
 顔が真黒に鼻が欠けた可愛そうな首人形はどこに居るんだろう。
 出て来て呉れる気はないかい。
 彼の若死にをした妹のおかたみになってくれる気はないかい。
 何か戸棚を見つけものをしたり、古い箱を開けたりする毎に小さい情ないおかたみの見つかる事を希って居る。

 口が自由に動かないで「ほおずき」が鳴らせないで居た彼の妹は赤いゴムの「ほおずき」を只しゃぶって居た。今私は豆や「なす」やのほおずきを気ままに鳴らして居るにつけせめてほおずき位ならせたらと思って居る。悲しみがどこか心のそこに巣喰うて居ると何か事があるたびにそれが動き出して来る。
 私のを縫いなおしたんで赤い縮緬の綿入が今日フト箪笥の中に見えた。
 今年のお正月には間に会わなかったから来年はきっときせてやると云って居た
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