の気持はまるで一変して仕舞った。
今は何事も、可愛らしくなつかしく思い出す。
生かして置きたかったと云う心は誰の心にでも湧き立って居るのである。
涙によって一変した人々の心のいつまでも変らずに有る様に――
けれ共それは親同胞でなければ出来得る事ではないだろう。
或る一つの事によって変じた人の心ほど不思議なものはない。又変じ得る人の感情ほど不思議な恐ろしいものもない。
――○――
短かい生涯であった妹は何一つとしてかたみともなるべきものを残して行かなかった。私には只「思い出」ばかりを置いて行って呉れた。
うれしくもかなしい事である。
亡くなる少し前に鳩ぽっぽの歌を覚え初めた。
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鳩ぽっぽ鳩ぽっぽ ぽおっぽぽおっぽと飛んで来い
お寺の屋根から下りて来い
[#ここで字下げ終わり]
そこまで一人で歌ったけれ共、あとを教えて居るうちに逝ってしまった。
そこまで歌って、フッと行きづまって、
「華子忘れちゃった」と云って私に抱きついて居た小さい掌が私の胸を段々と〆めつけて行った心持を今は只思い出すばっかりである。
父が京都の方から
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