心はその両親にもまさって歎くものである。
 あの時に髪を結ってやればよかった、あの時にあの着物をきせてやればよかった。
 あの時にもう少しながく抱いて居てやればよかった。
 今はもう取りかえしのつかない事を悔いる心は日々眼にふれるささいな事によってでも起る。
 あの幼ない妹にそそぐべき愛はあれよりももっともっと沢山あったのではあるまいか。
 召使のものたち、又見知り越しのものたちはその時こそ涙をこぼしもし思い出を語り合いもするけれ共、十日祭も早とうにすんで仕舞った今日、堪えられない思い出にふけって涙をこぼすものがどこに有ろうぞ。
 刻々と立って行く時はどうにでも人の心をかえて行く事が出来る。幾久しい時が立つとも変らないものは只一人骨肉の愛情ばかりで有ろう。
 この世の限り最も根づよい頼もしいものは骨肉の愛があるばかりではあるまいか。
 私は今となって、骨肉の愛と云うものがいかほど力強いものであるかと云う事を知った。
 今となって彼の妹が居た時分の悪戯をだれが云い立てるだろう。
 誰がそのきかない子だった事を云っていやな顔をするものがあるだろう。
「死」ただ此の一言のために妹に対する人々
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