ら呼んでも駄目だったと祖母は行き損をして又元の形で帰っていらしった。
 家の病人の悪いと云う事で旅先から帰ると云うのは私にとっては今度が初めてで口に云い表わせないワクワクした気持がそう云う事に経験のない私の心を目茶目茶にかき廻した。どうぞして気を鎮めたいものだと思って欲しくもない枝豆をポチポチ食べながら今度の病気の原因を話し合ったりした。不断から食の強い児で年や体のわりに大食した上に時々は見っともない様な内所事をして食べるので私が来る前頃胃拡張になって居た。胃から来た脳膜炎だろうと云うのが皆の一致した想像だった。
 若し実際脳膜炎だとすればどうぞ死んで呉れる様にと私は願って居た。
 自分の妹を死ぬ様になどと云うのはいかにも惨酷な様に聞えるけれ共たった一人の妹を愛する心は白痴の恥かしい姿を生きた屍にさらして悲しい目を見せるよりはとその死を願うのであった。
 心はせかせかして足取りや姿は重く止めどなくあっちこっち歩き廻った、祖母もあんまりぞっとしない様な顔をしてだまって明るくない電気のまどろんだ様な光線をあびて眼をしばたたいて居た。
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「兄弟達にも可愛がられないで不運
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