母が云ったりした。
もう三日ほどしたらと思って居たのを急に早めて翌日の一番で立つ事にした。
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「お前が行ったって死ぬものははあ死ぬべーっちぇ。
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いろいろに引きとめるのをきかないで私は手廻りのものを片づけたり、ぬいだまんま衣桁になんかかけて置いた浴衣をソソクサとたたんだりした。
たえず心をおそって来る静かな不安と恐れとがどんな事でも落ついてする事の出来ない気持にさせた。
眼の裏が熱い様で居て涙もこぼれず動悸ばっかりがいつも何かに動かされた時と同じに速くハッキリと打って声はすっかりかすれた様になって仕舞った。
指の先まで鼓動が伝わって来る様で旅費のお札をくる時意くじなくブルブルとした。
今頃私が立つ様になろうとは思って居なかった祖母は私に下さるお金をくずしにすぐそばの郵便局まで行って下すった。
四角い電燈の様なもののささやかな灯影が淋しい露のじめじめした里道をゆれて行くのを見ると今更やるせない気持になって口の大きい気の強い小さい妹の姿を思いうかべながら大きな炉の火をのろのろとなおしたりして居た。
九時頃だったけれ共もう寝ていく
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