りは
  くぼんだまなこで緋の衣を
  じいっと見たまま立って居る
    いつまでも――いつまでも

  「それならわたしが行こうとは
  申さぬほどにこの衣を
  妹にやって下され」と
    云うも叶わぬ願い事……

  ホロホロと涙は雪のその様に
    白い真綿にしみて行く
  かけ入ろうにも門はなし
  たのみたいにもつてはなし
  縫いあげし衣手にもちて
    残されし姉さ迷よえる
     その名を呼びて 涙して――

  雨が降る――風が吹く
  土のお宮は淋しかろ 寒かろう
    送ってあげたや この衣を
      この毬を
    残されし姉 さ迷える――
[#地から5字上げ](終)
          ――○――
 たった一人の掛けがえのない妹を失った私は大なる骨肉の愛情の力と或る動機によって一変する人間の感じと云うものの不思議さを知った。どうして今度斯う云う事を私が思ったかと云う事は亡き妹の性格と容貌をはっきりわからせなければそのわけが分らないのである。
 世の数多《あまた》数多い子供の中には何とはなし可愛げのない児と云うのがある。
 不幸な事には彼の妹
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