前方の迎えるままに私達はおしむ事を知らない骨肉の涙にその晴着を濡しながらも小さいお飯事道具とお人形を持たせて送ってやったのだよ。
私のたった一人の妹をだよ。
土! よくお聞き、何物にもかえがたい私の妹をだよ、たった一人の、――
どうぞお前方には尊すぎる花嫁を迎える新床をやんわりと柔らかくフンワリとやさしくしてお呉れ。どうぞね、土よ。
残されて歎く一人の姉の願いを聞いてお呉れ。
雨が降る――風が吹く
土《つち》のお宮は淋しかろ 寒かろう
送ってあげたや紅の地に
金糸の花を縫い取って
真綿を厚く夜の衣《きぬ》
それにそえては虹のよな
糸でかがった小手毬を――
日はひねもす夜は夜もすがら
銀の小針をはこばせて
縫いは縫うたが悲しやな
送りたいにもつてはなし
土のお宮にただ一人
妹《いも》を送りし姉娘
縫いあげし衣《きぬ》手に持ちて
わびしく一人たたずめる、――
土のお宮の城門《しろもん》に――
「あけてたべのう門守の
おじいさまよ」と願えども
青い着物に銀の鎌
いかめしゅう立つとしよ
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