傘をつぼめて居る私の黒衣の肩に雨が歎く。やがてザックザックと土をすくって柩の上を被うて行く音を聞いた時、急に私の心に蘇った恐ろしいほどの悲しさが私の指の先を震わし喉をつまらせ眼をあやしく輝かせた。
幾時かの後、私が又ここに送られて妹のわきに横わるまでまたと再びこの柩の影さえも見られないのだと思うと腹立たしい様な気持になって思いなげに土をかけて居る二人の男をにらんだ。
私が男をにらんで居る間も土は上へ上へとかさなって今立って居る処と同じほどの高さにまで被われて仕舞った。
父親の手に書かれた墓標はその上に立てられ親属の者におくられた榊の一対はその両側に植えられた。
四角く土をならし水を打ち莚を敷いて最後の式はスラスラとすんで仕舞った。
何と云うあっけない事だろう。
私の只った一人の妹は斯うして喪むられて仕舞った。失せられていやます肉親の愛情の不思議な力は私には堪えられないほどなつかしい尊い思い出となり、涙となって今現れる。柩の上にさしかかって居た杉の若木の根ざしよ、あの上にやさしくはびこって美くしいあみとなってさわがしい世のどよみを清く浄めて私の妹の耳に伝えてお呉れ。
お
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