先にした。恥かしい気もうじうじする気も私の心の隅にはちょんびりも生れて来なかった。
御供をし又それを静かに引いて柩は再び皆の手に抱かれて馬車にのせられ淋しい砂利路を妹の弟と身内の誰彼の眠って居る家の墓地につれられた。
赤子のままでこの世を去った弟と頭を合わせて妹の安まるべき塚穴は掘ってあった。
私はその塚穴の前に立った。
柩の両端に太い麻繩は結いつけられて二人の屈強な男の手によって、頭より先に静かに――静かに下って行く。
降りそそぐ小雨の銀の雨足は白木の柩の肌に消えて行く。
スルスル……、スルスル、麻繩は男の手をすべる。
トトト……、トトトト、土の小さなかたまりはころげ落ちる。悲しみの静寂の裡に思い深く二つの音は響く、繰り下げるだけ男は繩を持つ指をゆるめて柩は深い土の底に横わった。
私は土を握って柩の上に入れた。
コトン、ただ一度のその音は私の心をあらいざらいおびやかして行って仕舞った。
もう一つ、母の代りに、
もう一つ、亡くなった妹の兄達の代りに、私は沢山の土を入れた。
一つを手ばなす毎にこの踏みしめる足がついすべってその柩の上に重って落ちるのではあるまいか。
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