に袴をはく。
棺前祭の始まる少し前あの妹を可愛いがって居て呉れたお敬ちゃんが来て呉れた。
涙をためて雨の中を送りたいと云う人のあるのも知らないのだろう。遺される人の心も――若し知って居るとしたらどうして斯うして冷かに安らけく横わって居る事が出来るだろう。
棺前の祭は初められた。
白衣の祭官二人は二親の家を、同胞の家を出て行こうとする霊に優い真心のあふれる祭詞を奉り海山の新らしい供物に□□[#「□□」に「(二字不明)」の注記]台を飾って只安らけく神々の群に交り給えと祈りをつづける。
御玉串を供えて、白絹に被われる小さい可愛らしい棺の前にぬかずいた時今までの涙はもう止められない勢を持って流れ落ちた。
様々の思い――悲しみと悔い、心を痛めて起る様々の思いに頭が乱されてクラクラとなった、今にも何か口走りそうであった。下を向いてどこかになげつけたい様な気持で元の席に戻った。
なんど来ても結てやらなかった髪は今私がいかほど心を入れてといてやったところで一つの微笑さえ報いて呉れないではないか。
欲しいと云ってもやらなかった人形をやらなかった事を思ってせめられる私の今の心よ、只一言、私
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