しもなく長い旅路に持って行く。
 五つの髪の厚い乙女が青白い体に友禅の五彩まばゆい晴衣をまとうて眠る胸に同じ様な人形と可愛い飯事道具の置かれた様を思うさえ涙ははてしなくも流れるのである。
 飯事を忘れかぬる優しい心根よ。
 一人行く旅路の友と人形を抱くしおらしさよ。我妹、雪白の祭壇の上に潔く安置された柩の裡にあどけないすべての微笑も、涙も、喜びも、悲しみも皆納められたのであろうか。永久に? 返る事なく?
 只一度の微笑みなり一滴の涙なりを只一度とのこされた姉は希うのである。
 思い深く沈んだ夜は私の吐く息、引く息毎に育って糸蝋のかげの我心の奥深くゆらめくのも今日で二夜とはなった。
 明けの夜は名のみを止めた御霊代を守って同じ夜の色に包まれるのであろう。

        (五)[#「(五)」は縦中横]

 白みそめる頃からの小雨がまだ止もうともしずに朝明の静けさの中に降って居る。
 眠りの不足なのと心に深く喰い込で居る悲しさのために私の顔は青く眼が赤くはれ上って居た。
 雨のしとしとと降る裡を今に私共はこの妹を静かに安らえるために永久の臥床なる青山に連れて居かなければならない。黒い紋附
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