を早めて来たと云うばかりであろう。
 死を司る神に取っては、我が妹の死が十年早くとも又よしおそくとも何の差も感じないに違いない。
 それに涙が有ろうが有るまいが死の司は只冷然とそのとぎすました鎌で生の力と争いつつ片はじからなぎ立てるのみが彼の仕事で又楽しい事なのであろう。
 到々私は呼ばれた。
 引きたてられる罪人の様に苦しく苦しく見たくもなくて見ずには居られないものに向って進んだ。
 私がその部屋の入口に立った時、美くしい友禅の影はなくて檜の白木香り高い裡に静かに親属の手によって納められ、身の囲りにはみどりの茶が入れられて居た。
 姉らしい憂いに満ちた優しい気持で、私は先に欲しがって居てやらなかった西京人形と小さな玩具を胸とも思われる所に置いた。
 欲しがって居たのにやらなかった、私のその時の行いをどれほど今となって悔いて居るだろう。
 けれ共、甲斐のない事になって仕舞ったのである。
 小さい飯事《ままごと》道具を一そろいそれも人形のわきに納められた。娘にならずに逝った幼児は大きく育って世に出た時用うべき七輪を「かまど」を「まな板」をその手に取るにふさわしいほどささやかな形にしてはて
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