と絶えず争いつづける死の偉大な意味、その心などは人間にはきっぱり分りきって仕舞うものではあるまい。少くとも今の私には死の意味をさとる――その気持を思う事は出来ないにきまって居る。
 出来ないと知りつつも私の今の気持ではそれを思わずには居られない。
 只一人の妹の冷やかな身を守って静かに死を思う時冷静に感情を保つ事は私には出来ない。
 悲しさが湧く、涙がこぼれる、終には、自らの身の上にまでその事を考え及ぼして、自分が亡き後の人々の歎き、墓の形までを想像して泣く。
 皆、私の年のさせる事である。
 今日から三十年、四十年と、時がすぎて、私の髪が白くなったその時は一滴の涙もなくその事を想う事が出来るかもしれない。けれ共そうある事を希って居るのではない、私は今の此の力に満ちた蛋白石の様な心の輝きが失せて「死」の力も「生の力」の偉大さをも感じないほど疲れた鈍い、哀れな感情になる事を思うのは、いかほど辛い事だろう。
 どれほど、白髪が、私の頭を渦巻こうとも額にしわが数多く寄ろうとも、只、希うのは、健に、敏い感情のみを保ちたいと云う事である。
 今私が、妹の死を悲しんで、糸蝋の淡い灯影につつましく物
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