て横わる小さい姿の――
おお私のたった一人の――たった一人の私の妹よ――
(三)[#「(三)」は縦中横]
糸蝋はみやびやかに打ち笑む。
古金襴の袋刀は黒髪の枕上に小さく美くしい魂を守ってまたたく。
元禄踊りの絵屏風をさかしまに悲しく立て廻した中にしなよく友禅縮緬がふんわりと妹の身を被うて居る。
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「常日頃から着たい着たいってねえ云って居た友禅なのよ華ちゃん、今着て居るのが――分って?
[#ここで字下げ終わり]
いらえもなく初秋の夜の最中に糸蝋のかげに臥す幼児の姿ほど美くしいものはない。悲しいものはない。
私はその傍に静かに思いにふけりながら座して居る。
驚と悲しみに乱された私の心は漸く今少し落ついて来た。
たった五年で――世に出てから五度ほかお正月に会わないで逝った幼児の事がしみじみと心に浮ぶ。
世の中の辛い義理も、賤ましい人の心の裏面もまた生活と云う事についてのつらさを一つも味わわずに逝ったのは幸福とも云える事であろう。
尚それよりも幸福なのは偉大な力をもって人に迫る「死」そのものを知らないことである。
病む人が己に死の
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