麦畑
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)胡桃《くるみ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)足ろくさん[#「ろくさん」に傍点]に当って居る事から、
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             ○
 十日程前、自分は田舎の祖母の家に居た。畑は今丁度麦の刈込みや田の草取りでなかなか忙しい。碧く、高く、晴れ晴れと、まるで空に浮いて居る雲を追って起伏して居るような山々の下に、重い愁わしげに金色の耕地が続いて居る。その中で、汗みどろに成った男や女が鎌を振い、火を燃して彼等の収穫にいそしんで居る。景色は美くしい。青玉のような果が鈴なりに成った梅の樹の何処かで、百舌鳥の雛っ子が盛に鳴き立てるのを聞きながら、自分は庭先の「うこぎ」の芽の延び過ぎたのを樹鋏みで切って居た。
 東京では如何うだか、東北地方では、「うこぎ」を生垣にして置いて、春先に成ると柔かい新萌えの芽を摘んで、細かく刻んで、胡桃《くるみ》やお味噌と混ぜて食べるのである。
 頭に鍔広の帽子を被って、背中に山や沼を吹き越して来る涼風を受けながら、調子付いてショキリショキリと木鋏を動して
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