とって、新しい冒険と面白さの尽きない夏がはじまった。祖母と母も、新しい鰺を美味しがって、涼しい一夏を送れそうに見えた。ところが、妙なことが起って、匆々《そうそう》にここは引上げる始末となった。
竹藪の方から、泥棒がみんなの借りている座敷のあたりを狙いはじめた。子供らは、何にも知らず眠るのだが、起きると、大人たちが、昨夜も貝がらを踏む跫音がした、そこの板じきに足跡がついていると、物々しいことになった。和尚さんが、いくら呼んでも起きてくれなかったと、若い母が憤慨していることもあった。
十日ほど、そんなことが続いた揚句、一同は又来たときの行列で東京へ帰って来た。その夏、品川の伯父さんは、子供らにとってごく身近で、大磯のどこかにも来ていられるのかもしれないような塩梅だった。それでも、お目にかかったことは一遍もなかった。
中條の子供は、どういう工合でだったか一人も、西村の伯父上にお目にかかったものがないまま、遂に没せられたのであった。
お孝さんは、この西村の伯父さんの娘さんであった。母とはいとこ同士で、向島で暮した娘時代共に寝起きしたお登世さんという従姉をのぞいて、おそらく母が誰よりも親
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