貨車ばかり黙って並んでいるところへガシャンといって汽罐車がつくと、その反動が頭の方から尻尾の方までガシャン、ガシャンとつたわってゆく面白さ。白い煙、黒い煙。シグナル。供水作業。実に面白くて帰りたくなるときがなかった。
 その間に、ついて来ていた大人は何をしていたのだったろう。誰がついて来たかは覚えていないが、やがて弁当をひらいて、小さい握飯をたべた。
 それは正午と限ったことはない。とにかく「汽車を見にゆく」ときにはきっとお弁当がいり、それは、田端で汽車を見ながら食べられなければならなかった。
 弁当箱そのものが、子供らには重大な関心をもたれていた。何しろそれはイギリスから父が送ってくれた大小三つの赤トランクであったから。金属製で外側はイギリス好みの濃い赤でぬられているところへ、茶色エナメルでがんじょうな〆皮と金ピカの留金とがついている。それはただ平ったい上に描かれているのではなかった。ちゃんとさわってみると〆皮のところは〆皮のように、留金のところはそのように、高くうち出されている。それが堂々たる茶色と金で光っている。
 父が外遊中、家計はひどくつましくて、私たちのおやつは、池の端の何
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