入学試験前後
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)成人《おとな》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九二二年三月〕
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 さほど長くない学生生活の間で、特に印象ふかかったことと云って何があるだろう。
 女学校におれば、ちょうど十三四から人生を感じ始める十八九までの数年を過すのだから、善かれ悪しかれ、個人として思い出すことごとが、決してないというのではない。それらを書こうとすると、事件や感じがあまり自分だけのことであったり、罪ない思い出話以上のものになるおそれがある。さような点をさけ一体に見渡した時、何といっても心に忘られない跡を遺しているのは、入学試験前後の光景であろう。
 五六年前、私が女学校に入ろうとする頃には、激しいと云っても、今ほど競争試験は激烈なものではなかったらしい。自分の目ざしていた学校は、何でも、十人に一人くらいの比であったろう。子供だから、勿論はたの成人《おとな》ほど、そう云う数学的な心配はしない。ただ入りたい、入れないでは困る、と一心になって、下稽古をしたのである。
 六年になり
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