、そろそろ卒業が迫って来ると、一日、先生が、一人一人を立たせて、あなたはこれから何処へ入ろうと思いますか? と質問される。それが、当時では、云い難い一種のセンセーションを起させることで、自分の入学しようと言明する学校の名によって、その人の学術に対する自信が、裏書せられるように感じるのであった。
 皆の入ろうとする処が判ると、暗黙の競争が行われ始める。一日おき位に、放課後一時間か二時間いのこり、算術や国語の特別課業を受ける時も、一つの読み間違い、一つの式の立て違いが、何だか、みな遠い彼方で、入学試験の間違いと連絡していそうな気がする。
 私は、他の多くの友達と一緒に受持の先生がいられなかったので、同じ、六年の男子の教室で、そこの先生に教った。算術の日、国語の日とちゃんぽんにある。自分には、算術が一向うまくない。前の方に坐っていて、黒板の前に呼び出されては大変だと思って、いつも後の窓際に小さくなって控えているけれども、国語の時となると、気ものうのうとし、楽しく、先生と睨み合うように意気込んで、二時間をすますのである。子供の自信や、無力でしょげた感じは、実に独特なものであると思う。自分が子供
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