し、眼の端から泣いて何か母親に訴えている娘や、心配そうに本を出して見ているリボンの後姿を眺めた。――
第一日の試験に出来たつもりの算術が大抵ちがっていたのを知って、自分はどんなに涙をこぼしただろう。また、到底駄目に定ったと思って銀座へ遊びに行き、帰って玄関の暗い灯で、手に持った葉書を何心なく見、それが入学許可の通知であると知ったとき、歓びは、何に例えたらいい程であったろう。
十三の少女の心に、それほど鋭い悲しみや歓びを感じさせながら、受け入れた学校は、それから十九まで私に、どんな感化を与えたか、自分を中心にし、主観で見れば、そこには限りない追憶と、いろいろさまざまな我が姿がある。けれども、人生を深く広く客観すると、一生の最も基礎となる五年を、夢とほか過せなかったのか、という疑問が起って来る。
[#地付き]〔一九二二年三月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「婦人界」
1922(大正11)年3月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
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