る門へ向って帰りかけながら、ひろ子は自分も矢張面会を終ってかえるほかの女のひとたちと同じような足つきで砂利の上を歩いている、そう思った。会えて嬉しい、そんな一言では云いつくされないものがひろ子の体の裡にのこされてある。
 門を出るとすぐそこの広い砂利のところに、チャンチャンコを着せられた小猿が一匹来ていた。その小猿をぐるりと囲んで背広の男が二三人とピストルを吊下げた守衛もまじって、立ったり、しゃがんだりして笑っている。猿まわしの背中につかまっている猿ともちがう、どこかのその小猿は、黒い耳を茶色のホヤホヤ毛の頭の両方につき立て、蒼ずんだ尻尾を日向の砂利の上にひきずってしゃがみながら、皺だらけの顔を上下にうごかし、せわしなく目玉をうごかし、こせこせ何か食っている。
「こうしているところを見るとなかなか可愛いもんだね、ハハハハ」
 それは貧相ないやしげな猿であった。人間に向ってピストルを下げている人は猿になら気やすく愛想を云って笑っていた。ここには、人間についてすべての愛嬌を禁止した規則があった。けれども、猿となら笑っても反則ではなかったから。――

        四

 数日経ったある午
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