棟に建っている待合室は、男女にわかたれていた。ガラス戸をあけると煉炭の悪臭が気持悪く顔へ来た。割合すいていて、毛糸編の羽織みたいなものを着て、くずれた束髪にセルロイドの鬢櫛《びんぐし》をさした酌婦上りらしい女が口をだらりとあけて三白眼をしながら懐手で膝を組んでいる。そのほか四五人である。十二時から一時までは面会を休む。あと十五分ばかりで一時という刻限であった。
 ひろ子は売店で十銭の菓子と、のりの佃煮を差入れ、待合所の外の日向に佇んでいた。内庭には松などが植えこんである。面会所は左手の奥にあったが、初めて来た時、ひろ子は勝手がわからずそこが便所かと思って行きかけた。そういう間違いも不思議でないような見かけであった。門扉の外でタイアが砂利を撥《はじ》きとばす音がすると、守衛が特別な鍵で門をあけ、そこから自動車が一台内庭へ入って来た。三四人の男がその車から下りて、敬礼を受けつつ別棟の建物の中に入って行った。はなれたところからその様子を眺めていて、ひろ子は、重吉がここへ来たとき玄関の石段を登るに、拷問ではれた脚の自由がきかないで手をついてあがったと人からきいた話を思い出した。
 気になって時
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