だ。そんなことは誰だって実際現場の様子を知っているもんには分ってるはずだと思う。さもなけりゃ、本部はどうしてああいう指令を出したんだ?」
「議長!」
万年筆だのエヴァシャープだのを胸ポケットにさしている年配のが、落着いたような声で云った。
「俺は第一班だが……これは個人的意見なんだが、ストをやることに俺は絶対[#「絶対」に傍点]、賛成[#「賛成」に傍点]だ!」
一言一言に重みをつけてそう云っておいて、
「但し、だ」
一転して巧に全員の注意を自分にあつめた。
「但し、全線が一斉に立たないならば[#「全線が一斉に立たないならば」に傍点]、ストをやることは、俺は絶対[#「絶対」に傍点]に反対[#「反対」に傍点]だ!」
ひろ子は胸の中を熱いものが逆流したように感じて唇をかんだ。何とこの幹部連中は狡猾に心理のめりはりをつかまえて、切り崩しをしているのだろう。自分がこの会合で発言権のないお客にすぎないことをひろ子は苦痛に感じた。炭がおこって火になるときだって、どこかの一点からついて全体へうつってゆくのではないか。それだのに――。
言葉使いの意味ありげなあやに煽《あお》られて、パチ、パチ手
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